人形遊び
お父さんが子どもの頃、家には応接間というのがあった。
小さな石のテーブルと、長いソファーと一人掛けのソファーが2つ、向かい合っている。
このちょっと薄暗い部屋で、よくひとりで人形遊びをした。と言っても、おままごとではない。人形も大抵はプラモデルのロボットや自動車で、それを見ながら空想にふけっていたという方が正しい。
運動が苦手という訳でもなかった。走るのはえらく遅かったから、運動会は苦痛だったけど。
鉄棒は大車輪こそ出来なかったけど、蹴あがりから回転コウモリ、何でもできた。塀を登ってその上を忍者ごっこで歩いたり、自分の背の高さ以上の2m位の壁をよじ登ったり飛び降りたりはザラ。ぞれが出来ないと、野球をやっていてフライが塀を超えると、大切なゴムのボールがドブを流れていってしまう。大抵は拾ってきたボールを後生大事に使っていた。
セミ捕りは弟の得意な分野。とにかくセミの鳴き声が近所から聞こえ出すと、網を持ってすっ飛んで行く。
「セミとらしてください。」
人がいようといまいと、大声でこう叫んだら、ズカズカ人の家の庭に入って行く。
こんな具合だった。
誰に言われて練習した事でもなく、ルールも自分達で作り、目標や厳しい練習なんて気はサラサラなかったけれど、いろんな事ができるようになっていった。
いつも小さな特別の空間に生きていた。人形遊びも忍者ごっこも、野球もセミ捕りも、子どもだけが見えるワンダーランドで遊んでいたのだろう。
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